KAT-TUNの言葉に潜む「癖」【KAT-TUNソロ楽曲作詞傾向調査・前編】

 

 

こんにちは、るつです。

先々月は拙記事に沢山の御アクセスありがとうございました。身に余るほどの閲覧数におっかなびっくりしております。

あれから「せっかくアカウントを取得したからブログをこのまま放置するのは勿体無いな~。また面白いテーマを見つけてKAT-TUNについて一人ネチネチ悶々と考えたいな~」と頭の片隅で考えながら過ごしておりました。

 

前回は楽曲の一人称という観点から「KAT-TUNらしい」とは何なのか、何を持ってして「KAT-TUNらしい」と思わせるのか、その定義は年々意味合いが変わってきているのではないのか……といったところからスタートしていました。

ですが私達は「KAT-TUNらしい」というぼんやりとしたイメージを持っているのと同時に、「亀梨和也らしい」「田口淳之介らしい」「上田竜也らしい」「中丸雄一らしい」という個人へのイメージも抱えながら彼らの楽曲を追いかけているわけです。

 

ソロ曲。それは私が前回の記事でスルーしてしまったテーマです。

その年ごとに書いたり書かなかったりしていますが、KAT-TUNのメンバーは全員、自分で作詞したソロ曲を複数持ち歌にしています。

自分たちの頭から絞り出した言葉の結晶。自分の絞り出した言葉でもって「アイドルの自分」を飾り魅せていく。それはきっと、私達が普段から何となく感じているけれどなかなか上手く言葉にまとめられない「○○くんらしい曲」とは何かを紐解くヒントとなることでしょう。

 

というわけで今回は「ソロ曲からKAT-TUNメンバーの作詞癖を考察しよう!」という超余計なお世話企画に挑戦してみました。

KAT-TUNのメンバーが作詞をする際にそれぞれどんな言葉の選び方をする傾向にあるのか探っていきます。

 

 ちょうど大学で修辞技法(レトリック)に関する講義を取っていたので、主にそこで得たにわか知識を軸に辿っていきます。また、修辞技法に関する以下の書籍とサイトも大いに参考にしています。

 

日本語のレトリック―文章表現の技法 (岩波ジュニア新書)

日本語のレトリック―文章表現の技法 (岩波ジュニア新書)

 

 

 

 

なお、今回考察対象とする楽曲は2015年現在、本人による単独作詞の表記があり、かつ公式に歌詞が公開されているものに限定しました。連名での作詞の場合、どこからどこまでが本人の絞り出した言葉か区別がつかないので。

作詞癖考察と大きく出ましたが、私の修辞技法に関する知識量はちょろっと書籍を読んだり講義を聴いたりした程度ですのであまり期待はしないで下さい…!(逃げ腰)

それと、数字で換算できるデータと違い、修辞技法の解釈はかなり多岐に渡ります。それぞれの定義の境界線が曖昧ですし、私も分類している時に「これってこの技法にカウントしていいのか……?」と何度も頭を抱えました。

なのでこれから書き記します考察はド文系ド素人の一解釈!程度で見守って頂けると幸いです。積極的に異論を認めていくスタンスでいきたいと思います。

 

 

 

case1:中丸雄一【対象楽曲:key of life(2007年)、SMACK(2008年)、Snowflake(2013年)】

  • key of life

 ①強がる陰に隠れる所を 見ないふりして流してたのかな(隠喩・呼びかけ法)

「流す」に繋いでいるということは涙を喩えているのでしょうか。直接「○○のようだ」とは喩えず導入する隠喩に該当します。「流す」の目的語に場所を持ってくる発想が興味深いです。

 

②たまにくれる小さな手紙が 増えることはもうないのかな(呼びかけ法)

①同様に「かな」が語尾に来ました。今この場にいない愛する人へ尋ねるような声が連続します。

 

③二人過ごした優しい時間 戻りたいんだ出来るなら(転移修飾語・倒置法)

語順がひっくり返る倒置法。この場合は「出来るなら戻りたいんだ」をひっくり返しています。

また「優しい時間」というのは時間という概念そのものが優しいのではなく、愛する人と穏やかに過ごしていた関係を意味しているのでしょう。このように形容詞が本来ならば修飾しない名詞に働く修辞技法を転移修飾語といいます。「優しい」は感情表現ですから擬人法的とも受け取れそうです。

 

④今は誰かのそばにいるのかな(呼びかけ法)

 

⑤壊れない過去綺麗な思い出 心の中に並べて(転移修飾語・擬物化)

「過去」も「思い出」も概念であり目に見えるものではありません。

ということは「並べる」ことも不可能なわけです。過去や思い出をモノに見立てているということですね。

 

⑥戻る場所がここではなくとも(古語法)

読んで字のごとくあえて古い言葉を用いて文章にアクセントをつける技法

現代の用法に沿って「なくても」にしてもリズムや音数としては問題ないはず。「なくとも」の「とも」は古典文法でいうところの逆接的仮定条件に該当します。

 

⑦もう一度だけ魔法をかけて(誇張法・呼びかけ法)

魔法をかけて=ヨリを戻したいとするならば、あえて大げさな表現をする誇張法に該当するでしょうか。

また、魔法を司る何者かへの懇願とも受け取れる表現です。

 

⑧君の寝顔を見つめてる日々が そうこのまま続いて(換言法・含意法・呼びかけ法)

⑦をもっと具体的に言い換える一節が直後に綴られます。

含意法は読み手に意味を推測させる技法です。

君の寝顔を見つめる、というフレーズから二人がいかに親密な関係であったかを推測することができます。

 

⑨またすぐに分かり合えるよ(呼びかけ法)

 

  • SMACK

 ①空見上げ 強い光よ 僕たちを迎えてくれ(呼びかけ法・含意法)

僕たちを迎える=祝福といったところでしょうか。

 

②神様がなんとなく 偶然 君と合わせた(誇張法)

③病院で診察して 恋の病とわかる(誇張法)

やや幼い恋心を示すため「神様」「病院」「病」と大げさに結びつけています。

 

④僕の肩にコロン かわいさ倍増(擬態語・擬物化) 

「かわいい」という感情の数量化。

 

 ①いつだったかな? 白い息をはいて(呼びかけ法・含意法)

寒い季節を直接「冬」というのではなく、「白い息」から自然と連想することが出来ます。

 

②この手から 溢れる君との綺麗な思い出が砂のように落ちてく(転移修飾語・直喩)

直喩は「まるで」「~のように」といった表現。

また、思い出に対して<溢れる><綺麗><砂>と言葉が3重に絡められているのはかなり印象に残りますね。

 

③そこにあるお揃いの指輪はどうしよう(呼びかけ法)

 

④踊り明かす夜の街を 無の世界をひたすら(倒置法・換言法・誇張法または含意法)

並べ替えるなら、「夜の街をひたすら踊り明かす」「無の世界をひたすら踊り明かす」でしょうか。「夜の街」と「無の世界」の意味は同義?

失恋から「世界」という巨大な単語を引っ張ってきたか…ということで誇張法と書きましたが、やるせなさ・虚無感を示すといった意味では含意法的でもあります。

 

⑤同じ毛布の中(含意法)

『key of life』⑧に類似。

 

⑥冬の季節のせいかな(呼びかけ法)

 

⑦溢れた君との思い出は そう 砂のように積み上げてく(直喩・転移修飾語)

 

中丸くんの作詞したソロ曲でまず目についたのは呼びかけ法。かなり多用しています。

ただ、ざっくり呼びかけ法に分類したとはいえ、『key of life』と『Snowflake』は特にそうですが、別れた相手へではなく語り手が自分自身に問い掛けていると受け取れるものも多いです。多分ここは個人で解釈が分かれるところ。

連名での作詞のため今回対象楽曲からは外しましたが、『Answer』(2008*1年)、『FILM』(2010年)『クレセント』(2014年)にも中丸くんが携わっています。

その中でも『クレセント』の「どんな言葉 どんな想いならば その深く 響くだろう?」「そう言えばさあ 君の夢を見たよ」、そして『Answer』の「君もどこかで見ているのかい?」は呼びかけ法の典型例にかなり近い表現です。

呼びかけ法の中でもやや目立った「かな」という語尾については、『FILM』でも「もう慣れてる関係だからかな」「今とどう違うのかな」という形で使用されていますね。

あとは「思い出」をあたかも物質のように扱ったり、恋する気持ちをちょっと遠まわしに表現したり大胆に誇張したりする駆け引きの巧みさも個人的にはグッとくるポイントです。

切ない恋愛を歌ったソロ曲への定評は、呼びかけ法と併せてこういったところに起因しているのかもしれませんね。

 

 

case2:亀梨和也【対象楽曲:絆(2005年)、1582(2009年)SWEET(2010年)、Emerald(2014年)】

 

亀梨くんのソロ曲を考察するにあたって注意しなければならない点は、本名で作詞をするパターンペンネームを用いて作詞をするパターンがあることです。

ペンネームを用いて作詞をする際はどうやら「自分が書いた詞だととらえてほしくない」という意図があるようで*2、「メンバーの言葉選びの癖調べようぜ!」で走り始めてしまった私は非常にいたたまれない気持ちになってしまいました…ごめん……

ただ、『1582』(作詞:n)に関しては本人の口から「『1582』は『離さないで愛』を和風にアレンジして出来た楽曲」という発言が過去にあり*3、『SWEET』(作詞:N)についても、楽曲を聴いた印象を大事にしつつ書き出したという旨を明かしてくれています。*4

(フォロワーさん情報提供ありがとうございます…!)

 

というわけで本記事では念のため【「n(N)=亀梨和也」が極めて濃厚】という表現に留めておくことにいたします。

補足ですがこの「n」は『w/o notice??』でもAKIRAさんという方と共同で作詞をされています。

 

 ①空白? 心に何かがつまって(呼びかけ法・擬物化)

「心」を物質と捉えた上で「つまる」という感覚を持ってきています。

 

②一歩ずつでいいさ(呼びかけ法)

 

③共に歩んだ日々が 生きつづけてるから(擬人法)

 

④ボロボロになるまで引き裂かれていても あの時のあの場所 消えないこの絆(擬態語・擬物化・首句反復)

「絆」が「引き裂かれる」という擬物化。

首句反復は文頭の言葉を、また次の文頭でも使う技法

「あの時の/あの場所」と切って考えると、この畳みかけるようなフレーズがサビの終わりをぎゅっと引き締める効果が現れているように思います。

 

⑤失わぬように(古語法)

 

⑥心に染みてく(擬物化)

 

⑦嘘ついたっていいさ 涙流していいから(呼びかけ法・逆説法・結句反復)

「嘘をつく」「涙を流す」というイメージをあえて肯定的に捉えています。矛盾しているようで理にかなっている逆説法に該当。また、どことなく説得を試みているような口調とも受け取れます。

丸ごと同じ句を反復しているわけではありませんが、「いいさ/いいから」は④に近い表現です。

 

  • Emerald

そのその横顔 その唇(首句反復)

 

②暗闇でも輝く瞳に恋してた(撞着法・換喩)

瞳そのものではなく、その瞳を持った人への恋心という意味では換喩的。

撞着法は矛盾したフレーズをくっ付ける技法。ここでは「暗闇」と「輝く」の共存が発生しています。

 

③拗ねてみたり はしゃいだり その時間 その心に 確かなもの見つけた 2人の針が(首句反復・隠喩)

「針」という隠喩は『1582』にも登場します。

反復か韻かは微妙なラインですが、前半は語尾を「り」で揃えています。

 

④息を白く染める(含意法)

Snowflake』①参照。

 

⑤僕のどこまでも 君のどこまでも いついつまでも歩く 果てない道を(結句反復・倒置法)

まずは「果てない道をいつまでも歩く」の倒置法が来るでしょう。

「どこまでも」の結句反復だけでなく、直後に「いつまでも」という類音、さらに「いつ」の繰り返しが挟まります。

 

⑥透明な距離はつなぐ

これは何の修辞技法かと問われると答えに詰まるのですが、目に見えない「距離」にわざわざ「透明な」という言葉をくっつけてくるのが面白かったので挙げておきます。

 

去年発表の『Emerald』。本名かつ単独でソロ曲の作詞をしたのは実に9年ぶりだったんですね。

この2曲に共通するのは、反復関係の修辞技法がやや目立つといったところでしょうか。

もちろん音楽にはリズムや音数の制限があるので、言葉を重ねてキャッチーなフレーズを作り出す作業は小説よりも意識的に行われるのかな、と予想します。

ですが亀梨くんの詞の場合、1つの行や直近の行を細かく区切って小さな反復法を織り込んでいく傾向が見られます。それも「あの」「その」「どこ」といった、指示語・こそあど言葉に集中するという結果に。

小さなこそあど言葉を反復することで気持ちを漸層的に盛り上げていく。そんな効果が期待できますでしょうか。

 

そして中丸くんの詞には「思い出」そのものを物質に見立てて扱おうとする動きが見られましたが、亀梨くんの場合は「心」は物質であることを前提に、その「心」という物質が受ける刺激に着目し、感情表現に挑もうとしているように見受けられます。

亀梨和也名義で連名作詞のクレジットになっている『愛しているから』でも「ありがとうさえも君の心に届けてなくて」 「心のそばにそっといさせて」「カギかけてた 心 そっと開けて」という表現が登場します。

中丸くんは形容詞に、亀梨くんは動詞に重きを置いている印象です。

 

 

「n(N)」が単独作詞をしている残りの2楽曲も見ていきましょう。

  • 1582

 ①支配される 指先まで(倒置法)

 

②私は今 何故 どこ?(呼びかけ法)

 

③SI-でも…(黙説法)

感情の高まりや言い淀んだりする際にあえて言葉にしないのも修辞技法の一種です。

 

④痺れる心 踊る乱れてゆく(転移修飾語・擬人化・くびき法)

心に対して「痺れる」は物質化を前提にしたチョイスですが、心が「躍る」、心が「乱れる」という擬人法はかなり日常的な言い回しでもありますので目立った修辞技法と分類するのはボーダーラインでしょうかね…

くびき法について前述の『ふきだしのレトリック』では数学に喩えて5a+5bを5(a+b)とする技法と解説されています。この場合ですと「心躍る+心乱れてゆく」が、「心(踊る+乱れてゆく)」の図式に当てはまりそうです。

 

⑤その血に溺れて染まる(含意法)

満ち満ちた愛執の念を強烈に喩えてサビへと向かって行きます。

 

⑥見果てぬ地に向かう目は 何を映しだしてゆくの?(古語法・呼びかけ法)

 

⑦どうかどうか私を その手でつかんでいて(反復法・呼びかけ法)

 

⑧共に刻む針達に 奥の方を噛みしめて(隠喩・含意法)

針→時計→時間の連想が伺えます。

「奥の方」という言い回しがどこか抽象的で控えめなイメージです。

 

⑨ずっとずっと醒めぬよに 胸に手をあて願う 愛を(反復・古語法・倒置法)

 

⑩傷だらけの心さえも あなたを見て癒えるわ(転移修飾語)

 

 ⑪散っていった星達も(隠喩)

星=命と推測。

 

⑫一秒ごとに色を変える(含意法)

感情の揺れ動きを色に喩えています。

 

  • SWEET

 ①甘い君との時間は(転移修飾語)

「甘い」という本来ならば味覚で使う表現に「時間」をくっつけています。

 

②心の奥で 光が灯る(擬物化・含意法)

心という物質があることを前提に「光が灯る」を持ってきています。

今でも鮮明に思い出すことが出来る…といった意味合いへの発展でしょうか。

 

③甘く溶けるような恋を 少しもこぼさずにただ(転移修飾語・擬物化)

 

④口づけを星空の中で 君と重ねた(倒置法)

 

④感じ合った温もりを 確かめ合った気持ちを 胸に刻み込み(反復法・くびき法)

「合った」の反復、(温もり+気持ち)×胸に刻むというくびきの形。

 

⑤キリがないほど愛し合って 苦しくなるほど抱き合って(結句反復)

 

⑥君の想い 色褪せない これからも(転移修飾語・倒置法)

 

そういえば『SWEET』でも「時計の針など気にせずに」と、「針」が出てきますね。

『1582』は呼びかけ法がやや際立ってます。CD音源では2番も1番同様濃姫の視点で描かれますが、ライブでは2番が信長視点の歌詞に切り替わります。その向かい合わせが前提となっていたからこそ、このような呼びかけ法を生んだのでしょうか。 

『SWEET』は「感じ合う」「確かめ合う」「愛し合う」「抱き合う」という「合う」の統一が曲の世界観を上手く構築してくれています。また、今回取り上げた4曲には全て「心」が何らかの修辞技法に絡んでいるのも特徴的。

亀梨和也の言葉における「針」と「心」。ううむ、またしてもネチネチと掘り下げたくなるテーマが生まれてしまいました。楽しい。

 

思いの外長くなってしまったので田口・上田ソロ曲は後編記事にてアップ予定です。

*1:CDに収録されたのは2010年だが、初披露は2008年の一人舞台『中丸君の楽しい時間』

*2:ザ少年倶楽部プレミアム』2011年3月22日放送

*3:WiNK UP』2013年7月号 伝言板プレイバック

*4:『オリスタ』2010年6月28日号