KAT-TUNの言葉に潜む「癖」【KAT-TUNソロ楽曲作詞傾向調査・後編+おまけ】
前回記事の続きです。田口くん・上田くんの作詞について、修辞技法(レトリック)の観点から考察していきます。
case3:田口淳之介【対象楽曲:WIND(2009年)、LOVE MUSIC(2010年)、FLASH(2013年)】
- WIND
①まだ見ぬ景色(古語法)
②一緒に見ようよ この風に乗って(呼びかけ法・倒置法・擬物化)
目に見えない風に対して「乗る」という擬物化。
③心は弾む(擬物化)
擬物化ではあるものの、日常生活でもよく使う言い回しでもあります。
④さあ行こう ほら 手をかしなよ(呼びかけ法)
⑤誰だって求めてるんだよ(呼びかけ法)
⑥空仰いだら歩き出そう(呼びかけ法)
⑦ゆっくりでいい 自分を信じて(呼びかけ法)
⑧君が夢見てるSTORY教えてよ 隠してちゃもったいないから(呼びかけ法・倒置法)
⑨ライト浴びたら主役の舞台幕開け(隠喩)
⇒胸躍らせるオーケストラ 見たことのないセットの数々
⇒クライマックス ビシッと決めて 拍手の渦に酔いしれる
全体を通して「前向きにいこう!」といったポジティブなメッセージが多い中で、2番は自分の生きる世界が一つの舞台となって形容されていきます。セット=景色といったところでしょうか。
比較的シンプルな言葉の構成の中に塊でガッツリ入り込む大きな隠喩箇所です。
⑩目が覚めるまで 興奮冷めない(意綴同音異義)
“さめる”という音を同じくして違う漢字を当ててリズムを作っています。
ギャグやダジャレとかにも通ずる修辞技法ですかね。
⑪だから今を輝きたいんだよ(呼びかけ法)
⑫熱い思い 届けよう(転移修飾語・呼びかけ法・擬物化)
「思い」という形のないものを温度で計り、さらに届けるという擬物化へ繋げます。
⑬スタートライン 決めたら気持ちも 高まり始める(隠喩)
スタートライン=「今ここから頑張るぞ!」という意気込み。それを田口くんが後押ししてくれているかのようです。
- LOVE MUSIC
①曇り空埋め尽くす 頭の中かなりヘビー(含意法・転移修飾語)
どんよりとした気持ちを曇天に重ね、そんな気持ちでいっぱいになっている思考を重量で表現しています。
②飛ばすクツも重いよ(含意法または呼びかけ法)
こちらも①同様、靴自体が重いのではなく気持ちの沈みが感覚に入り込んでいるのでしょう。 呼びかけ法とも受け取れそうです。
③胸のKEY開けて飛び出そう(擬物化・呼びかけ法)
④踊る君を見た日から 光が差して晴れになった(含意法)
①②からの心境の変化が天候で統一されています。
⑤虹のように遠くまで 歌い続けよう LOVE MUSIC(直喩・呼びかけ法)
⑥のまれる前に乗れよ(呼びかけ法)
⑦どこかで心に響くリズム 七色に輝くまるでプリズム(擬物化・直喩)
⑦~⑩はラップ部分。「心に響く」も擬物化でしょうが『WIND』の③「心は弾む」同様に日常で頻繁に使われる言い回しですので、特筆するべきかはボーダーライン。
「七色」は⑤の「虹」から連想が来ていると見ていいでしょう。
⑧歌い出す木々(擬人法)
⑨鳥のように飛び立つさ どこまでも(直喩・呼びかけ法・倒置法)
⑩ただ前だけを見て歩いてこう(呼びかけ法)
①思い出す 元に戻らないあの日を(倒置法)
②閃光が 胸を走って突き抜けた(誇張法)
楽曲自体が失恋から新たな恋へ…といったテーマなのですが、①から②へ感情が移行する際に別々の修辞技法でもって強調していきます。
③Oh, it's new Is it true? 触れてみたいよ(呼びかけ法)
④恐れないさ 二人だけの New world(呼びかけ法)
⑤痛みも分かち合おう(呼びかけ法)
⑥わだかまり流していこう(呼びかけ法)
どうやら田口くんも、中丸くん同様に呼びかけ法を積極的に採用する傾向にあるようです。
ただ、この2人を比較してみると、選択される呼びかけ法の語尾には明らかな差があります。
前回の記事でも取り上げましたように、中丸くんの呼びかけ法は語尾に「かな」を用いることが多かったのですが、田口くんの場合はそれに代わって「よ」や「う」で収束していきます。中丸くんの呼びかけ法は自問自答も含んだようなものが多かったのですが、田口くんはより積極的に言葉が他者へと繋がっていきます。
ちなみにデジタル大辞泉で終助詞・助動詞の「かな」と「よ」「う」を引いてみると以下のような意味が出てきますので、参考として挙げておきます。
◎かな[連語]《終助詞「か」+終助詞「な」》
1 念を押したり、心配したりする気持ちを込めた疑問の意を表す。
2 自分自身に問いかけたり、自分自身の意志を確認したりする意を表す。
3 (「ないかな」の形で)願望の意を表す。
4 理解できない、納得いかないという意を表す。
◎よ[終助詞]
1 判断・主張・感情などを強めて相手に知らせたり、言い聞かせたりする意を表す。
2 (命令表現や禁止の助詞「な」に付いて)願望・依頼・禁止の意を強めて表す。
3 (疑問を表す語に付いて)相手をなじる意を表す。
4 (推量の助動詞「う」「よう」に付いて)勧誘・ねだり・投げやりの意を表す。
◎う[助動]《推量の助動詞「む」の音変化》
1 話し手の意志・決意を表す。
2 相手に対する勧誘や婉曲(えんきょく)な命令の意を表す。
3 話し手の推量・想像の意を表す。
4 当然・適当の意を表す。
5 (接続助詞「と」「が」などを伴って)仮定の意を表す。
6 仮想の意を表す。
7 実現の可能性がある意を表す。
case4:上田竜也【対象楽曲:LOST(2007年)、愛の華(2008年)、花の舞う街(2009年)、RABBIT OR WOLF?(2010年)、~again*1(2012年)】
- LOST
①痛ミニ悶エル 一滴ノ愛 飲ミ干セズにいる(擬人法・擬物化)
「一滴」という表現は物質と言えども液体化といった方がより具体的。
液体でありながら痛みに悶える神経を「愛」という単語に共存させています。
②逃げ出さないでよ 擦り切れそうでしょう? 今さら泣き出さないでね(呼びかけ法)
呼びかけ法の3コンボ。全部語尾が違いますね。
③愛ノ無イ果実 聞ク耳モタズニ 腐リカケテユク(擬人法)
①では「愛」が修飾される立場でしたが、2番に入ると修飾そのものの機能へと転換します。
④光亡キ穴ヘ(擬人法?)
「無き」に対する意綴同音異義とも取れそうですが、「亡き」となると生死を重ねる意図もあったのではないか? と推察。
⑤乾いた野原には花を 心には永遠を(対照法)
「AにはBを」というリズムに乗っ取りつつ単語のコントラストを色濃く映し出します。
また、「野原」と「花」は視覚で捉えられるものであり、逆に「心」と「永遠」は視認できないものです。
広々と無限に満ちた様が「野原」と「心」を対比させたのでしょうか。そう繋げていくと「永遠」もA側に代入できそうですが、「永遠」はB側の「花」と並ぶものとして取り扱われます。
⑥いつかは 届くの?(呼びかけ法)
⑦Ah 最後くらい 綺麗に穴(そこ)飛んでみせて(含意法・添義法)
添義法は本来の漢字の読みとは違う読み仮名をふる修辞技法です。
- 愛の華
①雨音 いつものように 聞いていた ⇔ アルバム いつものように 眺めてた(対照法・倒置法)
「目的語+『いつものように』+過去形の動詞」という対照法構造。
また、「雨音」と「アルバム」で最初の音をaで揃えています。
②愛のカケラを 逃げ出さぬように 砕けぬように 両手で抱きしめ(擬物化・擬人法・古語法・結句反復)
「愛」は欠片となり得るもの(=砕ける可能性のあるもの)と同時に「逃げ出す」という意思も絡んでいきます。
③私を 包み込むように 優しく 花びらが舞う(直喩・転移修飾語)
花びらが舞うという視覚情報が感情と感覚の双方から修飾されています。
④この街の景色も 彩(いろ)を変えて(添義法)
⑤あどけない優しい風が 頬を撫でる(転移修飾語・擬人法)
⑥涼しい日差しに(撞着法)
一般的に「日差し」という言葉に優先して絡んでくるのは、「熱い」や「強い」辺りのような気がします。
⑦変わらぬ想いと(古語法)
⑧いつもの笑顔と いつもの温もり(頭句反復)
⑨愛のサクラは この胸に散り 決して二度とは 咲くことはないけど もう一度いつかは あの"ミチ"を歩いてゆく また華を咲かせるように(含意法・隠喩)
愛を桜に喩えた上で、報われなかった感情を想いながらそれでも前へ進んでいく様子を暗示しています。
他には二度⇔一度が直近に置かれる構造、そして「道」をカタカナに変換した上で「””」と強調したことも意味深。
- 花の舞う街
①さらさらと花ビラが 舞い踊り彩(いろ)づく街(擬態語・擬人法・含意法・添義法)
花ビラを擬人化するのと同時に、街が色付く=花で溢れる=春が導き出されます。
②何かに惹かれるように(直喩)
③君と目が合う世界が 揺れて二人胸が震えた(誇張法)
ここでは「揺れる」と「震える」という類似した単語が登場。
心を動かされた感動を直接的な身体の状態へ変換。「世界」も誇張の一種であると考えました。
④君と過ごす時間は そうまるで光のようで(直喩)
⑤照れくさく笑う君のあどけない顔が大好きで(結句反復・黙説法)
④の直後に来るフレーズ。語尾の「で」統一はリズム的に反復っぽさがあります。
また「大好きで」の直後に今度は⑥が来るので、ここで文章が一旦尻切れになるという解釈も出来るのでは…?
⑥春の風に歌う花ビラは 君と僕をただ包み込む(擬人法)
⑦ほどけない指の温もりは 時に引き裂かれてく(擬物化)
目に見えない「温もり」に対し「引き裂かれてく」という物理的な言葉が応戦しています。
⑧君があの日くれた言葉「貴方は春みたいよ」と そして「私の彩(いろ)を変えてくれてありがとう」と(活喩法・添義法)
活喩法は今その場にいない人や亡くなってしまった人・神的存在など、不在の人物を登場させて語らせる修辞技法です。
ここでは言葉をカッコで括り、かつ女性らしい言葉遣いに変わって代入されています。
『花の舞う街』のテーマの根源には、この年に上田くんが主演した舞台『ロミオとジュリエット』の影響がとても色濃く出ています。もしも2人がハッピーエンドだったら。
ジュリエットの言葉が活喩法によって鮮やかに呼び起こされる一節ではないでしょうか。
⑨僕ら二人の未来の彩(いろ)は あの青空のように…(添義法・黙説法)
⑩かけがえのない夢を…(黙説法)
⑪そんな夢をずっと…(黙説法)
- RABBIT OR WOLF?
①昔々あるところに 悪い一人のオオカミがいました。(引喩)
昔話の定型文を引用したフレーズ。
②仲間になるふりをして さらに手を差し延べるふりをして(結句反復)
③赤い舌で唇を舐め 白い首筋に牙をたて(対照法)
リズム的には正確な対照ではありませんが、「赤い舌」と「白い首筋」という【色を用いた形容詞+名詞】、「唇を舐め」と「牙を立て」という【身体部位+動詞】でもって、前後のフレーズの音を出来る限り寄せているのが分かります。
④甘い言葉(いつわり)を笑って吐いて(転移修飾語・添義法)
⑤こんな下らない馬鹿げた世界は本当に必要あんのかって こりゃあ人類(ぼくら)には未来(さき)はないなって(結句反復・添義法)
④続く暗い空 希望(ひかり)ただ求めさ迷う(添義法)
「ただ光を求めてさ迷う」とするならば小さな倒置法も含むでしょうか。
⑤そしてキミはボクのことを笑って でもボクはキミのことを笑って だけどボクよりもキミが正しくて でもキミよりもボクが正しくて(倒置反復法)
文の骨組みは動かさず「ボク-キミ」間で順序を入れ替えて反復するかなり制限のかかった、けれども非常に整頓された印象を与える修辞技法。
⑥甘い誘惑をかけながら さらに眠り薬も混ぜながら(転移修飾語・結句反復)
⑦その閉じた瞳に爪を立て この世の光を奪い喰い殺していきました。(含意法)
光を奪い食い殺す=失明、でしょう。
⑧果たしてウサギのやったことは本当に正義だったのかって? じゃあオオカミが正義だったのかって?(結句反復・設疑法)
設疑法とは文章を読んでいる(楽曲の場合は、聴いている)私たちに向かって問いを投げかけてくる修辞技法を指します。
⑨でも僕ら傷をつけあって 紅(ち)に染まってく(添義法)
⑩だから何をキミが叫んだって そして何をボクが叫んだって 例えキミがボクを喰い殺したって 例えボクがキミを喰い殺したって(倒置反復法)
※補足※
『RABBIT OR WOLF?』では曲全体を通して寓喩的な構造を取ります。例え話(=諷喩)を連続させて一つのストーリーを仕上げていく寓喩は動物を引き合いに出すことが多くあります。例えば昔話の『ウサギとカメ』では、ウサギには自信過剰、カメには堅実という人間的な性格を投影させ、“大切なのはコツコツと頑張ること”というメッセージを表現しています。
寓喩という側面を持ちながら、「昔話っぽさ」という文体模写をも飲み込んでいると言えばいいのでしょうか。
ウサギとオオカミ。上田くんがこの動物に重ねた、人間の黒い一面と「昔話っぽさ」との大きなギャップに魅せられる珠玉の一曲です。
- ~again
①「さよなら。」耳に残る 雪の日の彼の声(活喩法)
彼の声を「」で括ることによって直接代入しています。
②あなたの声を聞かせてもう一度 あの日のようにまた戻れるのなら(倒置法)
③わがまま 涙 もう見せないから 貴方の腕で強く抱きしめてよ(呼びかけ法)
④鳴らない電話見つめ 雪は積もってく(含意法)
雪は積もっていく=時間が経っていくことを暗示。
⑤「好きだよ。」恥ずかしそうな 彼の声思い出す(活喩法)
⑥こんなに人を二度と愛せない 貴方がいればもう何もいらない(誇張法)
⑦ねぇ笑ってよ? 怒ってよ? もう一度 時間が経てば元に戻れるのかな?(倒置法・呼びかけ法)
⑧貴方のことを忘れるなんて できないよ…(呼びかけ法)
⑨時間が経てば元に戻れるのかな?(呼びかけ法)
⑩もう貴方は他の女(ヒト)を見ているの?(添義法・呼びかけ法)
まずパッと見ても上田君の詞ですぐに目に付くのは添義法でしょうか。
実を言うと上田くん以外の3人の詞にも「時間・瞬間(とき)」「瞳(め)」辺りが登場するのですが、ほぼ同じ意味でしかも昨今のJ-POPで多用されてるよな…と思い独断でカットしていました。
でも上田くんの添義法ってちょっと無視出来ないふりがなのつけ方してますよね。
ここからは私個人の意見ですが。
どうして無視できなかったのかな? と自分なりに考えてみた結果、「耳で聞く音」と「目で読む文字」を見比べた時の印象にどれだけ差がつくかの違いなのでは、という仮説が浮かびました。
つまり
耳で聞くと「時」→目で読むと「時間・瞬間」
耳で聞くと「目」→目で読むと「瞳」
耳で聞く | 目で読む | |
---|---|---|
時 | → | 時間・瞬間 |
目 | → | 瞳 |
どちらも似たような漢字と意味なので、まあ十分納得出来る範囲の変換です。
一方で、
耳で聞く | 目で読む | |
---|---|---|
そこ | → | 穴 |
色 | → | 彩 |
偽り | → | 言葉 |
僕らに先はない | → | 人類に未来はない |
光ただ求めさ迷う | → | 希望ただ求めさ迷う |
血 | → | 紅 |
人 | → | 女 |
耳で音を聞いた時と、実際の歌詞を目で読んでみた時の印象の違いが、上の表に挙げた言葉よりも大きいことに気が付きます。耳で聞いただけでは到底予想がつかない変換もチラホラ。
「人類に未来はない」「他の女を見ているの?」って、文字で見るとちょっとゾッとしますよね。
添義法以外の話をしますと、上田くんはどうやら他の3人の歌詞に伺えた「全曲通じて何らか共通の(恐らく無意識で)好きなレトリックがある!」…といった傾向はやや薄いようです。
『花の舞う街』あたりまでは擬人法・擬物化がやや多めですが、あとの2曲はそうでもないですし、『~again』では畳みかけるように呼びかけ法を用いるなど曲ごとに結構なバラつきがあります。
ただ逆に、対照法・活喩法・引喩・倒置反復法・設技法・寓喩と、上田くんの詞だけでしか発見できなかった技法がかなり多かったことは、「KAT-TUNというグループの枠組みにおける『上田竜也のソロ曲らしさ』」を紐解く重要なヒントと言えるのではないでしょうか。
これでソロコンサートの未音源化楽曲も考察出来ればより深まったのでしょうが、いかんせん私マウピ参戦歴が無いもので…!(;▽;)うわあ~~~~無念!!!
おまけ
お前まだ書くのかよって感じですね。すいません、もうちょっと書きます。
今年の3月に発売されたKAT-TUNの最新シングル『KISS KISS KISS』の初回限定盤2には、シャッフルKAT-TUNと題しまして、メンバーが2人2組に分かれてユニット曲を作ろうという企画が設けられました。
組み分けは亀梨&上田、田口&中丸。前者は上田くん作詞で後者は2人が連名で作詞。
言い換えるとこのユニット曲、一番最新の本人作詞楽曲に該当するわけです。
こりゃあもう調べるしかない。というわけでさくさく見ていきましょう。
- ありがとう(亀梨&上田)
①今そっと 動き出すのは 鮮やかに揺れるMEMORIES(擬態語・転移修飾語・擬物化)
「鮮やかに」という色彩表現でもって「動く」という動作を形容し、更にMEMORIES(=思い出)が動くものであるととらえる擬物化という二重の修辞技法。
②突然「海が見たい」だなんて(活喩法)
③君を僕の背中に乗せて ペダルを漕いだ放課後(含意法・換喩)
自転車の二人乗りを伝えるために、「僕の後ろ」ではなく「僕の背中」と婉曲的に綴っています。
また、「ペダルを漕ぐ」は、ある行為の時間を前後させている点において換喩という修辞技法に該当するでしょう。
例えば「筆をとる」といえば筆をとった直後に行う「執筆する」ことを意味するように、「ペダルを漕ぐ」といえば直後に自然と発生する「自転車を前進させる」という意味に繋がっていきます。
④風を浴びる君の制服(擬人法)
制服が風をシャワーのように浴びている様子…?
⑤怒った表情(かお)も(添義法)
添義法ですが、耳で聞くと「顔」→目で読むと「表情」と考えると、特筆すべきかどうかはちょっと微妙なところかも。
④胸の奥 レンズ越し いくつ日々を越えても焼き付いているよ 光るフィルム いつも心で廻ってく 色褪せず(倒置法・擬物化)
「いつも心で色褪せず廻ってく」と並べ替えると平坦な文章になるでしょうか。
レンズとフィルムというカメラ的な要素でもって、甘酸っぱい青春の思い出を切り取るように表現しているのだと思います。
⑤青色の 君との日々を 忘れないよ 今「ありがとう」(転移修飾語・呼びかけ法・活喩法)
ありがとう、と述べているのは恐らく「僕」でしょうが、僕の言葉にも「」がついています。
①の「海がみたい」は「君」の言葉と推測しますが、この楽曲が制作される際に亀梨くんと上田くんが、「学生時代にタイムスリップするというイメージの歌詞にしたい」といった趣旨のやりとりを交わしている様子がメーキングに収められています。
そうすると「僕」が発する「」で括られた言葉も活喩法と捉えられるのでは?という私の解釈です。
⑥「あんな気持ちをなんて呼ぶだろう?」(呼びかけ法または活喩法)
⑦あの涙を拭っていれば どんな未来があったかな(呼びかけ法)
⑧※遠く青い傷みが 君を呼んでるよ(共感覚法・呼びかけ法)
詳しくは後述。
⑨2つ夢 瞬いて(中略)星のよう 繋がるだろう(擬物化・直喩)
夢を星に喩えた上で直喩を導き出しています。
⑩変わらず見れると信じてた なぁそうだろう?(呼びかけ法)
⑪何度生れ変わってもまた 君を好きになるよ(誇張法・呼びかけ法)
⑫抱きしめる 何度だって(倒置法)
⑬忘れないよ 青い春よ(呼びかけ法・転移修飾語)
青春というフレーズの訓読みでもあります。
語感が噛み砕かれて優しいイメージになったように感じます。
⑭君に 「ありがとう」を(活喩法・呼びかけ法または黙説法)
を、で止めているところは黙説法の余韻に近いものがあります。
※⑧「遠く青い傷み」の共感覚法について
共感覚法とは転移修飾語よりももっと狭義で、五感を別の五感で修飾する修辞技法を現します。この場合、視覚(青い)が触覚(傷み)を修飾しているわけですが、共感覚法には
[触覚→味覚→嗅覚]→[視覚→聴覚]という一方向性の仮説
というものが存在します。*2
つまり「冷たい目」であれば触覚→視覚、「甘い声」なら味覚→聴覚、といったように、共感覚法って一方通行の法則があるんじゃない? というお話です。
しかし「青い傷み」は視覚→触覚なので、一方向性の仮説を逆走する例外的な共感覚法という解釈が出来るということになります。加えて「遠く」という空間的な形容詞も付随するので、一見すると短いフレーズですが、実はかなり凝った構造をとっています。
添義法は控えめですが、終盤に呼びかけ法を畳み掛けていくところに『~again』っぽさを感じてみたり。
上田くんの歌詞で擬人法・擬物化が戻ってきたのはちょっと久し振りだったんですね。
- キラリト(田口&中丸)
①いつもの待ち合わせ場所 どこか違って見えるよ(呼びかけ法)
②思い出の整理なんて しばらく 出来そうにないけど(擬物化)
③(僕から)背中を押すよ(呼びかけ法)
④別れじゃないさ(呼びかけ法)
⑤思い出詰まったカメラロール 指でなぞってみれば(擬物化)
⑥全て 昨日のようだよ(呼びかけ法)
⑦寝返りうった先にNOBODY(含意法)
前回の記事の中で、中丸くんの歌詞解析において『key of life』の「君の寝顔を見つめてる日々が そうこのまま続いて」と、『Snowflake』の 「同じ毛布の中」を取り上げました。
愛する人と親密であったことを示す含意法という意味において、⑦の表現は中丸くん寄りの発想ではないでしょうか。
⑧サンサンと輝き燃える太陽 馴染みの道二人で歩きたいよ(擬態語・呼びかけ法)
⑨SHINING MY HEART 咲かせよう SHINING IN YOUR HEART 明日の笑顔を(呼びかけ法・倒置法・転移修飾語)
呼びかけ法に強いと判明したこのコンビが、楽曲のテーマを決めるくじ引きで「応援」を引いていたんですね。*3
「2人の意見を上手いことミックスした」と本人達も公言していますが、確かにレトリック的な観点から考察しても二人の癖が面白いくらい見事にミックスされているのが分かります。呼びかけ法は主に田口くんの傾向を採用、思い出を物質に変換するのは中丸くんの傾向です。
具体的にどの部分をどちらが書いたのかは明かされませんでしたが、二人のレトリック癖が十分に推測材料になることが分かり私は大満足です。自分で考察していて鳥肌が立ちました(自画自賛)
気付けば既に1万字越え!前編も8000字近く書いていたので軽く論文並。ジャニオタの原動力怖い。
ここまで根気よくお付き合い頂き、本当にありがとうございました。とってもとっても楽しかった!!!!
*1:作詞者は「MOUSE PEACE “Tatsuya”」表記
*2:ふき出しのレトリック-共感覚法 http://members3.jcom.home.ne.jp/balloon_rhetoric/example/synesthesia.html
*3:ちなみに亀梨&上田チームのテーマは「恋愛」でした。